|   オープニングテーマMany Rivers To Cross
 Harry Nilsson
 
 
 
  ひょんなことから道連れになっちまった女と一緒に、俺は長距離トラックの助手席に座っている。 アスファルトの道路は、海岸線沿いに緩やかに曲がりながら続いている。俺と彼女はトラックの運ちゃんが大声でがなりたてる下手くそな演歌に悩まされながらも、順調に旅を続けている。
 「あんたたちゃあ何かい? 愛の逃避行ってやつかい?」
 「そんな風に見える?」
 「いや、見えねえ。トラックで駆け落ちするなんて話、聞いたことねえもんな。ところで、どこまで行くんだい?」
 「そうだな……この道が終わる所まで」
 「この国は、どこへ行っても行き止まりだよ。どこかへ逃げだそうと思っても、必ず何かにぶち当たっちまう。逃げられっこねえよ」
 「俺達、別に逃げてるわけじゃないよ」
 窓際に座って外を眺めていた彼女が、クスクス笑ってる。
 「ところでおじさん。ミスター・ジョーカーってやつ、知らない?」
 「あんた、あいつの知り合いかい?」
 「……うん、まあ」
 「知ってるも何も、ついこの間乗っけてやったばっかりだよ。あいつぁ、妙なやつだな」
 俺は彼女と顔を見あわせた。ずいぶん追いつめたぞ。
 「さあ、おふたりさん。俺はこれから国道を逸れるから、ここまでだ。がんばんなよ」
 俺と彼女はトラックを見送った。見渡す限りの不毛地帯の真ん中で。
 
 
 M-1
 Badlands
 Bruce Springsteen
 
 
 夜が来る前に、俺達は道ばたに停めてあった車のドアをこじ開け、そいつに乗っかって旅の続きを始めていた。カーラジオを鳴らし、俺達は暗闇をつっ走っている。
 窓から吹きこむ風に髪をなびかせながら鼻歌を歌っている彼女の横顔を見ているうちに、俺は、なんだか……。
 「あたし、ひと晩に何千人もの男と寝るの。そして朝になると、1人でうちに帰る。――そう言ったのはジャニス・ジョップリンだっけ」
 「……驚かすなよ」
 「似た者同士の男と女って、うまくいかないんだってね」
 「そうがどうしたんだ?」
 「あなたとあたし、よく似てる」
 俺は自分の気持ちを整理できずにいた。まだ彼女と知りあって1日しかたっていない。お互いにどこの誰かも、名前すらも知らない。ただの行きずりで、偶然こうやって一緒にいるけど、明日どうなるかも分からない。だけど……だけど……。
  ラジオがリズム&ブルースを歌いはじめた。俺は静かに車を停め、精一杯の気持ちで彼女に言った。「踊ろう」
 世の中の明かりは車のヘッドライトだけ。聴こえてくるのはオーティスのメロディだけ。俺達は車から出て、ヘッドライトの光の輪の中で寄り添い、静かに、踊った。
 
 
 M-2
 A Change Is Gonna Come
 Otis Redding
 
 
 俺達は小さな町のはずれにあったレストランの前で車を降りた。ここでゆっくり食事をしても、夜明け前には目的地へたどり着けるはずだ。
 店の奥の小さなステージの上では、酔いどれのシンガーがピアノを叩きながら、これまた酔いどれのコンボと一緒に歌を歌っている。
 俺達はカウンターの一番隅っこに並んで座り、フォアローゼスのロックとローストビーフのサンドイッチを注文した。
 店の中には、陽気な酔っぱらい達の笑い声が渦巻いている。俺はグラスを両手で包んで飲みはじめた。彼女はサンドイッチをぱくつきながら俺を下からのぞきこみ、ほほえんで言った。
 「あたし達って、お互いに人を不幸にする勇気もないのね」
 俺は決心した。
 「俺と一緒に行かないか?」
 「え? 何? 聞こえないよ」
 「俺と一緒に、あの街へ行かないか?」
 彼女は食べかけのサンドイッチをゆっくり皿に戻し、少しの間うつむき、それから透き通 るような笑顔で俺を見た。俺は彼女の言葉を待った。
 彼女は静かに首を横に振り、こう言った。
 「夢を見たいんだったら、1人で見なさい」
 突然、彼女はスツールから滑り降り、まるで踊るように店のドアへ向かった。ドアを開けて外へ出て、それからふり返った。初めて会った時のあの笑顔で。そして小さく手を振っ
 て。
 ドアは、静かに閉まった。
 「夢を見たいんだったら、1人で見なさい」
 
 M-3
 Blind Love
 小山卓治
  素敵な夜に限ってすぐに終わる俺達まだ何も手にしちゃいない
 電話ボックスじゃ恋に破れた女
 踊り続けて足をくじいた男
 ここで何度夢を見逃したんだろう
 でも今度こそつかめるさ
  今夜2人の勝利とロマンスを探そうかりそめのダンス踊って
 “さよなら”と“なぜ”がすれ違う交差点
 Blind Love
 
 
 イルミネーションが遠くにほのかに輝きはじめた。俺は車で、夜明け前の道路を1人で走っている。ずっと想い続けていた街が、もうすぐそこまで近づいている。
 流れ者として、新参者として、だけど決してあきらめない人間として、俺は生きていかなければ。
 ほら、もうすぐ、街の光とざわめきが俺を包みこむ。
 夢は1人で見るものだ。
 ミスター・ジョーカーを探して。
 
 
 エンディングテーマ
 Closing Time
 Tom Waits
 
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