俺は後ろを向き、ブルーに染まったメンバーの顔を見る。低い声で言う。
「ぶちかますぞ」
メンバー全員がうなずく。徹也が親指を立てる。俺は客席に振りかえって、ギターのボリュームをグイとフルにした。アンプがハウリングを起こして悲鳴をあげる。客席がハッと息をのむ。マイクを握りしめ、カウントを叩きこむ。
「ワン! トゥ!」
ステージの空気が一気に膨張する。
「ワン、トゥ、スリー、フォー!」
次の瞬間、空気が破裂し、切りさくようなサウンドが放たれた。ステージが真っ赤に染まる。ビートが牙を剥き、客席に襲いかかる。
俺のギターがリズムを叩きつけ、徹也のソロがその上で踊りくるう。俊二のピアノが舞いあがり、良がスネアを叩きふせて暴れる。気圧された客の顔が呆然としてるのが見える。
六郎のベースが突然ミスった。見ると、歯を食いしばってフレットを押さえこもうとしてる。俺が動くより先に徹也が俺の後ろをすり抜け、六郎の尻をブーツで蹴りあげた。ハッと我に返った六郎が徹也を見る。徹也がニヤリと笑って客席をあごでしゃくる。六郎もホッと笑みを漏らし、ステージ前へ飛びだしてベースをうならせた。俺はネックを振りあげてジャンプし、マイクをわしづかみした。
雄叫びがとどろく 土曜の夜
つぎはぎの夢と行き当たりばったりのやり口
半分他人になりすまし 半分自分のふりしてる
このどん詰まりから俺を救ってくれ
うすっぺらな希望 からみつく悪夢
この街の美しさは俺の心の空しさにそっくりだ
口からこぼれる言葉は 心と少しも似ちゃいねえ
このどん詰まりから俺を救ってくれ
とらわれのライオン 傷だらけのプライド
目を開けていても心はいつも閉じてる
当たり前のことがいつも正しいとは限らねえ
このどん詰まりから俺を救ってくれ
路地裏に転がる 可能性とチャンス
だけどできるってだけで何一つしでかせねえ
人と違うと言いながら自分に似たやつを探してる
このどん詰まりから俺を救ってくれ
仮面がはがれる夜 秘密は暴露される
絶望したやつだけが希望の意味を知ってる
このプライドをなくしたら俺はすっからかんだ
このどん詰まりから俺を救ってくれ
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