DAHLIA Jackets
[収録アルバム]
DAHLIA


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少年と風

詞:小山卓治 曲:小山卓治


昔々あるところに
2人の少年がいました
2人は風の吹く丘で約束しました
ずっとずっと友だちでいようと

1人はふるさとで
小さな畑を耕しました
そこから海も見えました
幼なじみの嫁をもらい
2人でコツコツ働いて
朝にはコマドリの声で目覚めました

1人は都会に飛び出し
寝る間もなく働きました
誰にも負けないと決めました
キャリアアップの下心で
結ばれた女は
誰もがうらやむ美しい人でした

お前はまだそこでくすぶっているのか
もっとがんばってみたらどうなんだ
お前が元気なら 達者でいるのなら
僕はそれだけで嬉しいよ

海風ににさらされた
畑で採れた野菜は
変な形でも瑞々しい味でした
2人が待ちに待って
授かった子はまんまるで
コロコロ笑う女の子でした

ノルマは達成されて
家庭はないがしろにされて
妻との間に隙間風が吹きました
上司に耳打ちされて
会議室で封筒を渡され
やってはならないことにも手を染めました

ロゼのシャンパーニュ ロッシーニ
パシフィックオイスター クリームブリュレ
人参のごま和え 玄米の混ぜご飯
タラの芽の天ぷら 玉ねぎの味噌汁

嫁の病いは幸いに
良性と言われました
畑をそよ風が吹き抜けました
朴訥な男に見初められ
娘は嫁に行き
狭い家は広くなって持て余しました

引き受けた取締役で
最初にやった仕事は
罵詈雑言が飛び交う会見でした
テレビに写る顔は歪み
家庭も失い
マンションの1人暮らしだけが残されました

時は流れ
年老いた夫婦は口数も減って
たまには思い出話でほほえみました
時は流れ
年老いた男は口数も減って
思い出すのは遠い昔のことばかりでした

ここからはいつも水平線だって見えるぜ
俺の勝ちだな 俺の勝ちだ
ふるさとの男は意味が分からずに
首を傾げて微笑みました

昔々あるところに
2人の少年がいました
2人は風の吹く丘で約束しました
ずっとずっと友だちでいようと


 


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